ツールの使い方

指標と使い方
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指標

Water Security Compass beta は、水リスクに関する最新の研究成果を含む7つの指標と基礎データを搭載しています(表1)。それぞれの指標は、以下の2つの評価での使用を想定しています(図1)。

  • 依存 (dependencies):サイトの事業活動が依存する流域の水資源の状態によって被る水リスク
  • 負荷と影響 (pressure & impacts):サイトの水利用が流域の淡水資源や生態系に与える負荷とその影響(水環境における水リスク)
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図1 指標を用いた評価の目的

掲載しているすべての指標は、厳密に定義され、計算手順が文献に公表されています。なお、例外として、pre-published indicator は今後、査読付き論文として投稿予定の指標です。それぞれの指標は対象地域における水需要量と利用可能な淡水資源量から算定されますが、指標によって時間解像度や、需要量の計上方法などが異なります。指標の定義と計算手順、文献については表の指標名をクリックすると表示されます。

取水量と消費量

計算式に使用する水需要量は指標によって、「取水量」とする場合と「消費量」とする場合があります。取水量は水源から取水する水の量で、水利用者、セクター間の競合度合いや給水制限リスク等、サイトが事業活動において依存する流域の水資源状況の評価に適しています。そのため、依存 (dependencies) を評価する指標の需要量には取水量が使用されます。一方、消費量は取水量のうち蒸発や製品への取込、海への放出などにより同一水体 (the same water body) に戻されない水の量を指し (国際標準化機構(ISO)14046) 、サイトの水利用が下流域に与える影響 (impacts) や流域全体に対する環境影響評価等に適しています。そのため、水利用が淡水資源や生態系に与える負荷と影響 (pressure & impacts) を評価する指標の需要量には消費量が用いられます。

表 1 beta版に掲載している指標と基礎データ
分類 想定される評価の目的 名称
(Click on the indicator for details)
単位 空間解像度 時間解像度
年別値 発生確率 月別値
指標 依存 Cumulative Deficit To Demand (CDTD) [%] Sub-basin N/A N/A
Deficit To Demand (DTD)* [%] Sub-basin 1/2, 1/5, 1/10
Sectoral and Statistical Demand to Availability (SS-DTA) [-] Sub-basin 1/2, 1/5, 1/10 N/A
SDGs indicator 6.4.2 [%] Sub-basin N/A N/A
Baseline Water Stress [%] Sub-basin N/A N/A
負荷と影響 Available WAter REmainig (AWARE) [-] Sub-basin N/A N/A
Deficit To Consumption (DTC)* [%] Basin N/A 1/5
基礎
データ
水資源と水需要の把握 Water availability [mm/year] Sub-basin N/A N/A
Environmental water requirement [mm/year] Sub-basin N/A N/A
Human water demand [mm/year] Sub-basin N/A N/A
Domestic Demand [m3/s] 5-arcmin grid N/A N/A
Industrial Demand [m3/s] 5-arcmin grid N/A N/A
Agricultural Demand [m3/s] 5-arcmin grid N/A N/A
(〇) 提供されている情報 (N/A) 提供されていない情報 (*) Pre-published Indicator

使い方

Water Security Compass に掲載されている幾つかの指標について、想定される使用例を説明します。

依存(dependencies):

CDTDとDTD

水需給の逼迫に伴う物理的な水不足は、給水制限に伴う生産活動への被害、農産物等のサプライチェーンの脆弱性、操業コストの拡大、事業拡大への制約といった形で、事業活動に対して様々な影響を及ぼすと懸念されます。

Cumulative Deficit to Demand (CDTD)やDeficit to Demand (DTD) は、水資源量と水需要量の季節的・経年的な変動を考慮し、水需給の逼迫度を評価する指標です。このうちCDTDは平均的な逼迫度を、DTDは月毎、発生確率毎の逼迫度を示しています。例えば発生確率が2年に1回よりも5年に1回の場合ほど深刻な渇水が発生し、水の不足率も大きくなります(図 2)。CDTDにより平均的な逼迫度を相対比較し、DTDにより渇水の発生頻度と規模を考慮した事業活動への影響評価を行うことができます。

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図 2 DTD指標の発生確率に対応する値の概念図

負荷と影響 (pressure & impacts):

Available WAter REmaining (AWARE)

生物多様性条約締約国際会議COP15において採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の2030年ミッションには「生物多様性の損失を止め反転させ、自然を回復軌道に乗せるための緊急な行動」が盛り込まれています。事業活動における水利用が淡水資源や生態系に及ぼす負荷と影響の把握は、流域の水環境を保全するための活動を決める上で重要です。利用可能な水資源の絶対量が多い流域と少ない流域とでは、同じ量の水を消費しても淡水資源に与える負荷は異なります。そこで、サイトが消費する水量と流域の淡水資源量を勘案して、正味の負荷を評価します。

国際標準化機構(ISO)14046では水に関連する潜在的な環境影響を数値化する指標であるウォーターフットプリントについて定められています。水量に着目する場合は、水の希少性フットプリント (water scarcity footprint) とい う指標を求めます。これはインベントリ (消費量) に地域の水の価値を反映した特性化係数 (Characterization Factor; CF) を乗じて算出されます。Water Security Compass では、水の希少性フットプリントにおけるCFとして開発された指標の一つである Available WAter Remaining (AWARE) をグローバルに計算し、提供します。事業者はサイトの水消費量データにAWAREの値を乗じて水の希少性フットプリントを求め、流域の淡水資源や生態系に与える負荷を評価できます。同じ水消費量でも、AWARE指標が大きいほど地域に与える負荷が大きいと判断されます。

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図 3 水の希少性フットプリントの評価方法

留意事項

本ツールでは特定の地域、特定の月の評価結果を示していますが、グローバルな情報に基づくため、精度には限界がある点に留意が必要です。本ツールのみで、特定流域における固有の水リスクの精度の高い把握は困難であり、流域の詳細情報を用いた2次評価が重要となります。